危機対応実践力養成プログラム
取組代表者の挨拶
■ 危機場面に対応できるしなやかな保育士、歯科衛生士をめざして
KTU大学教育研究開発センター長 足立了平(口腔保健学科教授)
6438人の命が失われた阪神淡路大震災の発生から今年で丸15年が経ちます。被災地の中でも特に甚大な被害をうけた長田の地に建つ本学には、この大震災を風化させることなく次代に語り継ぐ義務があります。この災害では人間の英知では太刀打ちできない圧倒的な自然の破壊力をまざまざと見せつけられました。しかし、大切なものを失った一方で私たちは多くの教訓や感動を得ることもできました。生きていることを素直に喜び、命の大切さを掛け値なしに実感したのです。仲間やコミュニティの大切さも再認識できました。1995年はボランティア元年といわれています。助け合い、励ましあうことに喜びを感じ、被災した人も被災地にやってきた人もともに泣きながら成長しました。これほど多くの人間が優しさや勇気を惜しげもなく提供した時期は過去にないのではないでしょうか。
近年、大規模な災害はいたるところで発生しています。自然はそこに暮らす人だけでなくかかわるすべての生き物に教育的な示唆を与えてくれます。私たちは災害を時代とともに風化させるのではなく、真摯な気持ちを込めて教材として活かさなければなりません。このたび、本学の教育力向上プログラムである「危機対応実践力養成プログラム」が文部科学省から非常に優れた取り組みであるとして、21年度大学教育推進プログラム(GP:Good Practice)に採択されました。共生・協働・自律をキーワードに、倫理観の高い学士力とあらゆる危機に対応可能な実践力を養うことを目的としたこの教育プログラムを、震災の節目の年に神戸から発信できることは誠に意義深いものがあります。
このプログラムの根底に流れる理念は、「いのちを大切にする」ということです。災害を語り、震災を考えるということは、「いのち」と正面から向き合うことです。本学のような医療・教育系の大学にとって、「命」という概念は、病気や事故による生命の喪失といった「生物の生死」という観点から語られることが多いのですが、人間としてもっと広い大きな意味での「いのち」に目を向けることから始めなければなりません。世界の現状や自分を取り巻く社会に目を向けることの大切さを学び、人間としての生き方や歩むべき道について考えることが「命を大切にする」ことにつながっていきます。
大学は「教育」・「研究」・「地域貢献」という3つの柱をその使命として持たなければなりません。本学も広く地域とともに考え、学び、歩みたいと考えています。大学と地域が一体となって「防災・減災」に取り組み、「危機対応」実践力をともに向上させていくことができればこの上ない幸せです。
保育士、あるいは歯科衛生士やその他の医療職種として体験する危機は、命にかかわる重篤な事態につながる可能性を秘めています。近い将来このような事態に直面したとき、本プログラムを履修した本学のOBたちがすばやい行動としなやかな対応であざやかに切り抜けていく姿を想像して私は今から胸を熱くしています。